主 now The きく♥みみ&たび 2006年01月

12 中秋の顔見世

第三章 森の集会

【中秋の顔見世】

月明かりに照らされた森の中の空き地、
ぽっかりと空いた広場、
それは完全に干からびた沼の跡地でした。

空き地のちょうどまんなかに、朽ち折れた老樹の株がありました。
その株を囲むようにして、苔が生えています。
すでに数十匹の猫たちが、あちこちでグループをつくって雑談をしていました。
なかには、誰とも会話せずに、毛づくろいに励んでいる猫たちもいます。

薄汚れた猫や、毛の抜け落ちた猫もいます。
見知らぬヤッタを遠目でじっと眺めている猫もいます。

中秋の顔見世

ヤッタは緊張して、ブラッキーにピタリと寄り添っていました。
すると、1匹の可愛らしい白黒のブチ猫が、ブラッキーに気づいて走り寄ってきました。

「ブラッキー、こんばんわ!
 おひさしぶり」

「やぁ、アイラ、こんばんは!」

そこへサバトラ模様のグラマーな娘猫も寄ってきました。

「こんばんわ!ブラッキー」

「やぁ、こんばんは!リーリー」

「こんばんわ!ブラッキー」
「こんばんわ~ブラッキー」

ブラッキーは、ヤッタの前でテレながら挨拶をしています。
ヤッタはドキドキしてしまいました。

「ブラッキー、僕・・どこに居たらいい?」

「ここでいいよ。会長は、あそこに立つからね」
ブラッキーが、老樹の株を指して言いました。

「ブラッキー、君は友達が多そうだね。
 しかも、女の子ばかり」

ヤッタはちょっと冷やかし気味に言いました。

ブラッキーはニヤニヤしながら、
「僕の友達というより、
 僕の彼女の家の近所に住んでるお嬢さんたちさ。
 いわば彼女の友達だよ」と言いました。

「え?彼女?」

「うん。春に子供が生まれたんだ。
 今はまだ子育てしてるよ」

「え?ブラッキー、君って親父なの?」

「まぁね」

そこへまた、別の猫がやってきました。

「ブラッキー、こんにちわ」
「やぁ。こんにちは!」

ヤッタの横で、挨拶を交わすブラッキー。

ヤッタは、ブラッキーがどこまでも大人猫だと思い、
ちょっとだけ寂しくなりました。

「ヤッタ、会長の挨拶のあとは、顔見世が始まってね、
 新顔が挨拶するんだ。
 ヤッタも自己紹介をするんだよ。
 ただし、自己紹介は瞬き信号でするんだ。
 そのあと、お見合いが始まるのさ。
 今夜は、普段より若い猫たちが多いよ。
 お見合いで、気に入った娘がいたら声をかけるといいよ。
 うまくいけば、ね、君にも彼女ができるってことさ」

「お見合い?彼女?」

ブラッキーの唐突な言葉に、ヤッタは驚きました。
しかしブラッキーは、大真面目な顔で言いました。

「そうだよ。
 僕もここで、チャミと知り合ったんだ」

「チャミ?」

「僕の彼女の名前だよ。
 今夜、来ていたら紹介するよ。
 だけど、姿が見えないね。今日は来てないのかな。
 まだ、子猫たちが小さいからね」

「へぇ・・」

ブラッキーは、その彼女猫チャミを探しているようでした。

ヤッタはブラッキーの言った<お見合い>には全く興味が湧きませんでした。
それには理由があったのですが、何よりもヤッタの興味は、今夜の集会でどんな話が聞けるのか、そのことでいっぱいでした。

「ヤッタ、ここにいてくれ。
 僕は、チャミを探してくる」

「うん」

ヤッタは、広場の隅で、ブラッキーを待つことにしました。
坐って、あたりをきょろきょろ見回していると、誰かが叫びました。

「会長さんがきたぞ!みんな、こちらへ集合!」

その声が号令のように、四方八方に散らばっていた猫たちが、中央へ集まって来ました。
先ほどまで、マタタビに酔いしれていた猫たちも、すでに到着しています。

ヤッタは不安になりました。
ブラッキー・・どうしたんだろう、早く戻って来て。
僕、どうしていいかわかんないよ・・。



周りのざわめきが、だんだん静かになってきました。
後の方にいたヤッタのまわりには、誰もいなくなってしまいました。
と、思っていたら・・
1匹の小さな灰色の毛長猫が、ヤッタの後で、同じように不安な瞳で空を眺めていました。

この子、いつから居たんだろう。
ヤッタが話しかけようとしたとき、ブラッキーが戻って来ました。

「ごめんよ、ヤッタ。
 チャミは、やっぱり来てないみたいだ。
 会長が来たから、もっと前に行こう」

「うん」

ヤッタは、ブラッキーのあとに続いて歩きだしました。
ちょっとだけ灰色の毛長猫が気になって振り返ってみると、
子猫は、ぼんやりと星空を眺めていました。

「ブラッキー、あの子、知ってる?」
「いや知らない。毛長かぁ。迷子かな」
「迷子?」


その時、ゴホン!ゴホン!と大きな咳払いが聞こえました。
そして、さるなしの木の葉を掻き分ける音が、森いっぱいに響き渡りました。

ツルを掻き分けていたのは、寅吉と寅次でした。
その間から、背の低い、ずんぐりとして不恰好な猫が、
うさぎのように跳ね歩きをしながら飛び出しました。

「あれが、会長さんだよ」
ブラッキーが、ヤッタにささやきました。


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さるなしの香り より

足元には苔も生えていました。
そのじめっとした感触も、苔むした森の香りも、
ヤッタにとっては新鮮でした。

他の猫たちも、時々立ち止まってはマタタビの木の根元でうっとりしています。
木の根元でうっとりする猫たち


体をくねらせたり寝転んだりして、すっかりマタタビに酔いしれている猫もいます。
マタタビの夏場は白くなった葉や花を咬んで、よだれをたらしている猫もいます。
伐採された古木の株で、夢中でツメ研ぎをしている猫もいました。
あちこちで、猫たちが立ち話をしている光景も目に飛び込んできました。

■□■……… 11 さるなしの香り より
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11 さるなしの香り

【さるなしの香り】

トミ爺のあとを追いかけたヤッタとブラッキー。 
二匹は、難なく地蔵様の影を飛び越えました。
  
地蔵様の影を飛び越えるなんて、こんなに簡単なことじゃないか。
なのに、どうしてトミ爺は・・

なぜかヤッタは無性に悲しくなりました。
トミ爺とは二度と逢えないような気がしたからです。
 
 
二匹は無言で、トミ爺のあとを追っていました。
小道の角を曲がると・・

そこでヤッタが見たものは、トミ爺ではなく、
ぞろぞろと集会所へ向かうたくさんの猫たちの後姿でした。

さるなしの香り


トミ爺のようにも見えるし、別の猫のようにも見えます。
トミ爺はどこ?

ヤッタは思わず叫びました。

「トミ爺!」

しかし、その声で振り返った猫たちは、みな迷惑そうな顔をして、
ヤッタを睨みつけました。

「ヤッタ・・、大丈夫だよ。
 トミ爺はこの中にいるよ。
 みんなに挨拶するって言ってたじゃないか。
 そのとき、また逢えるさ。
 大丈夫・・。
 帰りは、僕らが坂の上まで送ってあげよう」
ブラッキーが言いました。

が、やはりブラッキーもトミ爺を探しているようでした。

「でもブラッキー、トミ爺は影を踏んでいったよ!
 どうなるの?
 ねぇ、どうなるの?
 トミ爺の言ってたこと、どういう意味なの?」

ヤッタがムキになって聞くので、ブラッキーはシッポを膨らませ、

「僕だって解らないさ!
 知らないよ!知るわけないだろう!」と、

初めてキツイ口調で答えました。

ブラッキーも、ヤッタと同じことを思ったのです。
地蔵さんの影を踏んでしまったトミ爺は・・消えた?
それを打ち消したくて、ヤッタに怒ってしまったのです。

ヤッタはしょんぼりと下を向いて、黙って歩きました。




さて、猫たちが向かう、さるなし並木の5本目あたりとは?
さるなし並木といっても、さるなしの木が規則正しく生えているわけではありません。

さるなしの木は、この自然の森の中に点々と生えている低木でした。
このあたりが、住宅地になる前は、山林だったのかもしれません。
その時のヤッタは、まだ知るよしもありませんでしたが、この街は坂の多い町でした。

森林公園には、人工的に手入れをされた場所と、自然をそのまま残した場所がありました。
もちろん、さるなしの木も、手つかずの自然樹木のなかにありました。

遠くの方では、風を切って走る車のすれ違う音や、パトカーのサイレンの音もしていました。しかし猫たちは、虫の声より無関心です。

猫の集会に何度か参加していたブラッキーは、5本目のさるなしの木が生えている場所を知っていました。
道端には、黄色やムラサキ色の小さな花が咲いています。

「その紫色の花は、ホタルブクロって言うんだよ。
 光る虫を入れて、遊ぶのさ・・
 人間の子供たちがね」ブラッキーが言いました。

ヤッタはブラッキーから話しかけてくれたことを嬉しく思いました。

「光る虫?ブラッキーは、見たことあるの?」

「いや・・。
 もう、この森にはいないって。
 トミ爺から聞いた話、さ」

「そっか。僕もそういう話が聞きたかったな」

「聞けるさ」

「うん」


道の途中には、マタタビの木もありました。
ヤッタもちょっと立ち止まって、クンクンと鼻をならします。

「ヤッタ、それがホンモノのマタタビの葉だよ」

「うん、ブラッキー、とてもいい香りだね」

「この道は帰りも通るから。まずは、行くよ」

ヤッタは、マタタビにも動じないブラッキーの意志の強さに、
感心しました。
僕もブラッキーのようになるんだ。
ブラッキーとは、ずっと友達でいたい。

ヤッタは、そのことを口にしようと思って、やめました。
なんだか、何も知らないで感動ばかりしている自分が、
恥ずかしかったのです。 

足元には苔も生えていました。
そのじめっとした感触も、苔むした森の香りも、
ヤッタにとっては新鮮でした。

他の猫たちも、時々立ち止まってはマタタビの木の根元でうっとりしています。

木の根元でうっとりする猫たち

体をくねらせたり寝転んだりして、すっかりマタタビに酔いしれている猫もいます。
マタタビの夏場は白くなった葉や花を咬んで、よだれをたらしている猫もいます。
伐採された古木の株で、夢中でツメ研ぎをしている猫もいました。
あちこちで、猫たちが立ち話をしている光景も目に飛び込んできました。

ふと、ヤッタは、そのなかにトミ爺はいないか?と思いました。

まさか、消えやしないよね・・トミ爺・・。
 
トミ爺には、また逢える。
みんなに挨拶するって言ってた。
トミ爺は言った。
想いを残して、旅には出ないと・・。
ブラッキーも、そう言ってた。
必ず逢える!って。

でも、どうして追いつけなかったのだろう。

ヤッタはブラッキーのあとをひたすら付いていきました。
そして、とうとう5本目のさるなしの木に到着しました。

白い花を咲かせたさるなしのツルが、まわりの樹木に絡み付き、行く手を遮っていました。
ブラッキーは、ツルを掻き分けて、枝葉をくぐって行きました。

ヤッタもブラッキーに続いて、枝葉をくぐりぬけていくと・・・
あたりが急に明るくなりました。

突然、お月様が、真上にあるかのように照らされた空き地に出ました。
大きな穴のような、ぽっかりとした空間です。

ヤッタは驚きました。

「これは・・」

まるで猫たちが集会を開く場所として用意されたかのような広場。
そこには、すでにさまざまな猫たちが集まっていました。

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老猫トミ爺の呟き より

地蔵様の影を飛び越えたはずのトミ爺でした。
しかし、後ろ足がちょっとだけ、その影に入っていました。
地蔵様の影とトミ爺の影は、ゆらゆらと揺れながら重なって、ひとつの大きな猫の影になりました。

トミ爺のつぶやき

■□■………10 老猫トミ爺の呟き より
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10 老猫トミ爺の呟き

【老猫トミ爺の呟き】

「こんばんは、トミ爺さん。
 相変わらず、お達者な足ですね」

ブラッキーが感心して言うと、老猫は穏やかな笑みを浮かべました。

「こんばんは。ブラッキー君、そしてお友達。
 やっと君たちに追いつけたようじゃ」

老猫は、ヤッタにも目礼をしました。
ヤッタも無意識に挨拶の瞬き信号をおくりました。
一瞬の挨拶でしたが、それがヤッタにできたこと、
ブラッキーは密かに嬉しく思いました。

三匹は、ゆっくりと歩き始めました。
トミ爺が呟くように言いました。

「わしゃ、今夜が最後かもしれん」

ヤッタとブラッキーは、思わず顔を見合わせました。
トミ爺は続けました。

「本当は、今夜は来れんと思ったのじゃ・・。
 最近は、ちょっと歩くと息切れしとるんじゃょ。
 じゃが、最後くらいは皆に挨拶しておかんとな」

ブラッキーは足を止めて、トミ爺に言いました。
ヤッタも立ち止まりました。

「トミ爺さん、体がきついなら無理をしないでくれよ。
 今夜、集会で話し合ったことは、あとで教えに行くよ。
 帰り道もあるんだからさ。
 帰った方がいいんじゃないかな・・」

ブラッキーが気遣って言うと、少し先を歩いたトミ爺も足を止めて前方を眺めながら言いました。

「ハンノラ生活18年(人間歳で88歳)、
 今夜は、最後の晩に見る月夜かもしれんしな。
 人間にも挨拶してきたのじゃ・・。
 あとは、仲間に挨拶するだけの想いじゃ。
 想いを残しては、次の旅に出られぬのじゃよ」

トミ爺は、これから向かう集会所の方を見つめていました。
すぐ手前の曲がり角には、ねこじゃらしに埋もれた小さな地蔵様があります。
トミ爺が再び歩き出しました。
 
「あの角を曲がれば、さるなし並木だ。
 集会所だ。さぁ、行くぞ。お先に・・」
 
そう言って歩き出したトミ爺の後ろ足は、少しよろけていました。

ブラッキーは、トミ爺の姿を見つめていました。
ヤッタも立ち止まったまま、トミ爺を見つめていました。

曲がり角の地蔵様のそばに来たトミ爺は、振り返って大きな声で言いました。

「おっと!
 君たちも、ここは飛び越えて行くんじゃぞ。
 この地蔵様の影を踏んだらいけない。
 地蔵の影を踏んだらば・・
 畳の上で死ねなくなるんじゃ。
 あの唄は、カワレ猫の悲しい唄じゃよ・・」

トミ爺は、それだけ言うと、そのまま地蔵様の影を飛び越えました。
月明かりに照らされた地蔵様は、道の真ん中に橋のような長い影を作っていました。
老猫とは思えぬほどの、身軽な跳躍に思えました。
ところが・・

(あ・・)
(トミ爺・・)

地蔵様の影を飛び越えたはずのトミ爺でした。
しかし、後ろ足がちょっとだけ、その影に入っていました。
地蔵様の影とトミ爺の影は、ゆらゆらと揺れながら重なって、ひとつの大きな猫の影になりました。

トミ爺のつぶやき

「さらば。
 これがハンノラの、いや野良猫の宿命じゃ・・
 本望じゃ・・」

トミ爺はそう呟きながら、その影を引っ張ったまま、角を曲がって行きました。
二匹は急いでトミ爺のあとを追いかけました。
 
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9 見張り猫 寅吉と寅次 

【見張り猫 寅吉と寅次】


「こんばんは、ブラッキー」
「待ってたよ、ブラッキー」

シャイの秘密


赤茶のトラ猫たちは、交互にブラッキーに言いました。
ヤッタと同じく、まだ若いオス猫です。

「僕らが最後の到着なのかな?」

ブラッキーが尋ねると、二匹の赤茶のトラ猫たちは、

「坂の上のトミ爺さんが、まだです」
「坂の上の長老さんが、まだですね」

と、再び交互に言いました。

「そうか。
 長老のトミ爺さんの家は、ここから一番遠いからね。
 しかし、あの爺さんは歩くのが速いから、もうすぐ来るさ。
 ご苦労さん」
と、ブラッキーが言いました。 

赤茶のトラ猫たちは、ブラッキーの後にいたヤッタを見ています。
ブラッキーは、振り向いてヤッタに言いました。

「ヤッタ、もう声を出していいよ。
 ここなら、森の木々や虫たちが、
 僕らの声をかき消してくれるからね。
 紹介するよ。
 こちらは、見張り猫の寅吉と寅次だ。
 会長さんの手伝いをしている兄弟猫だよ」

それから、寅吉と寅次のほうへ向き直って言いました。

「僕と同じマンションに住んでいるヤッタだよ。
 今夜、初めて集会に参加するんだ」

ブラッキーに紹介された寅吉と寅次は、同時に頭を下げました。
ヤッタも黙って頭を下げました。

「ヤッタ、もう声を出していいんだよ」

「うん」

ヤッタは小さな声で挨拶をしました。

「ヤッタです。よろしく」
「寅吉です、よろしくね」
「寅次です、よろしくね」

ふと、ブラッキーは、ヤッタと寅吉と寅次の声色が、
全く同じに聴こえたような気がしました。

寅吉も、ちょっと不思議な顔をしました。
が、急いで足元にあった木の葉を1枚取って、それをハグハグと数回咬んでから、ブラッキーに見せました。

「ブラッキー、集会所は、ここです」

「わかった。
 では、ヤッタ、行こうか」

ブラッキーは、歩き出しました。
ヤッタも並んで歩き出しました。

「ブラッキー、今のは何?」

「歯型のメモさ」

ブラッキーは歩きながら、小さな声で説明をしました。

「あの葉っぱはね、さるなしの葉だったんだ。
 てことは、集会場所は、さるなしの木のそばってこと。
 さるなしの木が生えてるとこは、決まってるんだ。
 この先なんだよ。
 寅吉が葉っぱに付けた咬み跡は、5回だった。
 5本目の木ってことなんだ。
 そこが今夜の集会所さ」

「へぇ。どうして5本目の木って、
 声を出して言わないの?」

「それは、喧嘩猫に聞かれないためだよ。
 喧嘩猫は、集会のじゃまをするからね。
 瞬き信号で、集会があるってことは知られてる。
 ああして、集会の入り口で寅吉たちが見張りをしてるのさ」

「喧嘩猫?そんな猫がいるの?そいつって、恐いの?」

「さぁ。
 僕は幸運なことに、一度も出くわしたことがないよ。
 寅吉の足元には、干したマタタビの実が置いてあるんだ。
 喧嘩猫が来たら、それを渡して帰ってもらうらしいね」

「へぇ・・」

「まぁ、そういう約束ごとがあるらしいけど、
 いちおう、用心して声に出さないのさ」

「へぇ・・」

ヤッタが感心していると、ブラッキーは、
「集会で、こんな唄を覚えたよ」
と言って、突然おかしなフシをつけて唄いだしました。

 森の神社の裏手に行くと、
 さるなし並木が見えてくる。
 ニャア ニュウー にょ~
 
 さるなし、さるなし、マタタビはナシ。
 さるなし並木にマタタビはナシ。
 そこら辺りが、集会所。
 ニャア ニュウー にょ~
 
「ははは。ヘンな唄だろう?」

「僕、そのフシの唄をベランダでも聴いたよ。
 ふふふ。可笑しな唄だね」

ヤッタも笑いました。
ブラッキーは続けて言いました。

「ニャア ニュウー にょ~、
 ってのは、おまじない、なんだってさ。
 僕も知らないよ。
 どんな意味があるんだろうねぇ」 

すると、背後から同じフシの歌が聴こえてきました。

「ニャア ニュウー にょ~
 地蔵の影を見つけたら、  
 影の向こうを歩いて行けよ。

 地蔵の影を踏まぬよう、
 地蔵の影を踏まぬよう、
 ニャア ニュウー にょ~ 」

ヤッタが驚いて振り向くと、すぐ後に1匹の老猫が来ていました。
ブラッキーは、すでに気がついていたようです。
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手摺の上を歩く猫たち より

二階の屋根に飛びうつり、勢いに乗って1階の屋根へ。
ブラッキーの後姿を追って、ヤッタは宙を飛びました。

僕が本物のネコならできる!


一瞬の出来事でしたが、ヤッタにとっては大冒険。

■□■………瞬き信号・・・6(手摺の上を歩く猫たち)より
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8 シャイの秘密

【シャイの秘密】
 
ふわふわの毛長猫シャイは、ブラッキーの合図に気が付きません。
それでも、視線を送り続けるブラッキーに、ヤッタは言いました。

(ねぇブラッキー、
 一声かけたら気が付くかもしれないよ?)

(いや、鳴いてもムダ。
 君もシャイに合図してくれよ)

ヤッタは、ブラッキーの言葉を無視して一声鳴いてみました。

「ミュー!」
ミュー!

声は届いたはずでした。
けれども、シャイは森の方を眺めています。
ツンとすまして、まるで知らん顔をしています。
ミューなら、あんなにお高く留まっていないだろう。
ヤッタはそう思ってがっかりしました。

(なんだ・・呼んだのに、無視してるよ。
 僕の知ってるミューかと思ったのにな)

ヤッタがそう呟くと、ブラッキーは呆れたように言いました。

(声を出すな、と言ったのに・・。
 君はまだ、ホンモノの猫じゃない。
 鳴きたい時に鳴いている、辛抱のないカワレ猫だよ。
 いいかい?
 僕と一緒に行動してるんだよ?
 どうして僕の忠告が聞けないのかなぁ。 
 外ではね、声を出したら命取りになることもあるって、
 言ったはずだよ。 
 
 それに、鳴いたってムダなんだ。
 シャイは、片方の耳が聴こえないんだよ。
 人間には、秘密なんだけどね。
 君の声は、虫の声と同じさ。
 シャイには届かない)

(耳が聴こえない?)

ブラッキーは再びシャイの居る窓辺を眺めてから、
垣根の方へ歩き出しました。

(ヤッタ、行こう。シャイはまた今度紹介するよ)

(うん・・)

二匹は垣根を抜けて、路地に出ました。

シャイは耳が聴こえないって・・。
人間には秘密って、どういうことだろう。
僕は何も知らずに・・
お高く留まっている猫だなんて勝手に思い込んだんだ。
悪かったなぁ。
ヤッタは、シャイのことを考えました。

しかし、ブラッキーの後を追いながら、
コンクリートのひんやりとした感触を味わうと、
細く聳え立つ星のような街灯の下で、 
シャイのことも忘れてしまいそうでした。

街は全体、静かでした。
昼間のうちに大合唱をしていた蝉たちも、寝ています。

(ヤッタ、固い道では、端っこを歩くんだ。
 今夜は急ぐから、この近道を行くけど、
 この道は、車が通るから危ないんだよ)

(え?)

(ほら来た!
 ヤッタ、もっと端っこに寄って!)

と、その時、ブラッキーとヤッタの脇を1台の車がゆっくりと通過していきました。
二匹の猫に気づいた人間が、スピードを落としてくれたのです。

(あれだよ。あいつが車ってやつさ。
 あいつに襲われたら、ひとたまりもない。
 近づいて来たら、逃げればいい。
 追っては来ないよ。
 この道が固いのはね、あいつらが通るからだよ)

(うん。気をつけるよ。
 車ってね・・僕は何度か乗ったことがあるよ。
 旦那さんと奥さんが乗せてくれた)

(僕だってあるよ。
 ケガをして病院へ行った時にね。
 だけど、君は車の道を歩いたことはないだろう?
 初めて歩くから、注意をしたのさ。
 帰りは、僕らの通る道を教えるよ)

(うん・・。
 でも、僕は手摺や屋根の上を歩くのは苦手だなぁ)

(そう思っているのも、今のうちだけさ)

(ねぇ、ブラッキー、
 僕は今まで、あのベランダから下ばかり見ていたよ。
 この道も毎日眺めていたんだよ。
 だから、知っているような気になっていたんだ。
 だけど、この道がこんなに広くて長くて、
 隠れた道まであったなんて、思いもしなかった。
 森へは簡単にいけると思っていたんだ)

(うん。
 僕らの家からは、大通りしか見えないからね。
 もっと細い道だってあるよ。
 これからは歩いて覚えられるさ。
 知らない道も知っていくんだ。
 ヤッタ、森へは、もうすぐだよ)

住宅街をぬけて、二匹は森林公園の入り口に来ました。
サイクリング・コースと書かれた看板と、
森の小道の散歩コースと書かれた看板がありました。
もちろん、それは人間の使う道です。

ブラッキーは、森の小道の遊歩道に入っていきました。
あたりは真っ暗です。
それでも月明かりのおかげで、ヤッタには見えました。
その先に居た二匹の猫の姿です。

シャイの秘密

赤茶のトラ猫たちが、ブラッキーとヤッタの到着を待っていました。 
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物知りなブラッキー より

二匹は、庭の端っこに植えてある低い木の影に隠れました。そこでブラッキーは、体に付いたゴミを払いのけるように、丁寧に毛づくろいを始めました。

物知りなブラッキー


ヤッタは、一面に生えている草の香りと、足裏の感触が気持ちよくて、走り回りたくなる気持ちを抑えていましたが、ブラッキーにそう言われて、慌てて毛づくろいをしました。

…………………

その時、2階の窓の隅から、カーテン越しにピカリンと光る猫の目が見えました。
ふいに、ブラッキーは毛づくろいをやめて、屋敷の方へ向かって視線を送りました。

ミューだ・・

ミューだ!・・・

■□■………7 物知りなブラッキーより
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7 物知りなブラッキー

第二章 さるなしの香り

【物知りなブラッキー】

ヤッタとブラッキーは、マンションの隣に建っていた一軒家の庭に入り込みました。
庭は、手入れの行き届いた芝生が敷き詰められて、青々と茂っていました。
家を囲む垣根には、すっきりと形の良い木々が規則正しく植えられていました。

(この家には、お婆さんしかいないんだ。
 いろんな人が出入りしてるけど、夜は一人になるんだって。
 灯りが消えてるだろう?もう、寝ているんだよ)

(へぇ・・よく知ってるね)

(そりゃ、この家のお嬢さんに聞いたからさ。今から紹介するよ)

物知りなブラッキー


二匹は、庭の端っこに植えてある低い木の影に隠れました。そこでブラッキーは、体に付いたゴミを払いのけるように、丁寧に毛づくろいを始めました。

(ヤッタ、君も身奇麗にしておきなよ。
 それが初対面で会う時の礼儀だ)

(うん)

ヤッタは、一面に生えている草の香りと、足裏の感触が気持ちよくて、走り回りたくなる気持ちを抑えていましたが、ブラッキーにそう言われて、慌てて毛づくろいをしました。

どこからともなく、いい香りもしてきます。 

あ、この匂いは・・僕も知ってる。

ヤッタが鼻をぴくぴくさせると、ブラッキーが自慢げに言いました。

(いい匂いがするだろう?この草がホンモノの敷物の匂いさ。
 それとね、もっといい香りがしてるのは、この木だよ。
 この木はね、サルナシと言ってね、
 僕らが好きな匂いのする木なんだ)

(サルナシ?それも誰かに聞いたの?)

(もちろん。ここのお嬢さんにね。
 森には、ホンモノのマタタビもある。
 知ってるだろう?マタタビの木)

(ええ?あれは粉じゃないの?)

(ははは!僕もね、ホンモノを見るまで、そう思ってたよ)

(ホンモノ、ホンモノって、よく言うね、ブラッキーは)

(そうか?)

(うん。さっき、僕がホンモノの猫じゃなかったらってなんて。
 そうも言ったよ)

(ははは。すまない。別に悪気はないんだ。気にするな。
 しかし、気にするってことは・・ホンモノじゃないな。
 人間とだけ長く生活してると、そうなるね)

(また言った!どういう意味?
 僕だって、好き勝手にやってるよ)

(怒るなよ。
 僕もね、ヤッタと同じだったんだよ。
 僕だって少し前まで人間が作ったものしか知らなかった。
 でも、外歩きができるようになって、いろんなことを知ったんだ。
 ヤッタも、これから知っていくよ)

(知りたいから、外に出たんじゃないか。
 僕はまだ、ニセモノだって知らないよ)

(すまない。
 しかし、僕の言い方には、慣れてくれよ。
 森に集まるヤツラのなかにはね、
 もっと気に障る言い方をするやつもいる。
 それをいちいち気にしてたら、
 カワレ猫、つまり飼い猫をバカにする話も聞いていられないよ)

(カワレ猫って僕らのことでしょ?バカにするの?)

(うん。面白いんだよ。集会に出られない仲間の話、だからね。
 それに、何も知らないってことでバカにしやすい。
 カワレ猫と会ってケンカするってこともないからね。
 なぜってさ、カワレ猫と付き合うことはないからだよ)

(僕ら、カワレ猫だよね?付き合うことがないって?)

(ははは!ヤッタ、いいかい?僕らは今、どこに居る?)

(え?)

(僕はもちろん、君だって、家の外に出ているよ。
 もう、いっぱしの野良猫なんだよ。
 帰る家が決まってるから、半分家猫ってことで、
 ハンノラ。
 瞬き信号で『カワレ猫も来たれ』と合図するのは、
 『初めての訪問もどうぞ』ってことだよ。
 でもね、裏をかえせば・・
 『この森へ来れるものなら、来てごらん』ということさ。
 森へ行けば君は大歓迎されるだろう。
 けど、それはもうカワレ猫じゃないからなんだ。
 ハンノラの仲間だからさ。ハンノラこそ、最高の地位だよ)

ブラッキーは、してやったりの顔でヤッタを見つめました。 
ハンノラの仲間と聞いても、ヤッタは悪い気がしませんでした。
ブラッキーの言った、最高の地位という意味が解りかけたからです。

ハンノラの仲間・・僕は半分、野良猫になったんだ。
これからホンモノの猫になっていくんだ。

その時、2階の窓の隅から、カーテン越しにピカリンと光る猫の目が見えました。
ふいに、ブラッキーは毛づくろいをやめて、屋敷の方へ向かって視線を送りました。

(気がついて、シャイ!こっちを見て!)

シャイと呼ばれた猫は、網戸を少しあけて顔を出しました。
ふわふわとした長い毛並み、まんまるに見える顔、
大きく輝く美しい瞳、ヤッタは驚きました。

ミューだ!・・・

ミューだ・・

ヤッタは、はっきりとミューの顔を思い出しました。

ブラッキーは、シャイに向けて何度も瞬き信号を送り続けました。
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テーマ : 児童文学・童話・絵本
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

美月

Author:美月
家族は、夫と母と愛犬3匹、愛猫3匹、熱帯魚。
2015年春まで都内在住。
2015年春から隣県の実家暮らし。

2017年秋、放置気味のブログをこちらに移行して、ワンコ日記を再開。
再開のキッカケは、きくみみに、弟分(たび)ができたから。

ガーデニングブログも、こちらに移行しました。

【主 now The きくみみ&たび】とは、
【シュナウザーきくみみ&たび】
主人公(主犬公?)は愛犬たちという意味です(^^)

-------------------------
注)
2017年10月以前の記事のページは、3つのブログがこちらに移行されていますので、
記事内容のダブりがあります。
少々ウザイ状態ですが(^^ゞ
リンク先が不明ページも(ここに移行して載せていますので)実は、あるのですょ。


猫の創作話は【駒吉(愛猫の名前)】で綴っています。

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